新たなオフィスや店舗の立ち上げ、既存のスペースの改修など、様々な目的でテナント物件の内装工事が行われていますが、「内装工事を行ったほうがいいのか」「内装工事の相場はいくらなのか」と考えたことはありませんか?
この記事では、テナント物件の内装工事の必要性をはじめ、内装工事の種類や相場、会計処理時の注意点について解説します。
テナント物件の内装工事は必要?
内装工事とは建物内の設備・装飾の施工を行うことを指します。
具体的には、設置される設備機器、壁や天井などの内装、空間デザインなどを行う工事を意味します。新規開店だけでなく、新装開店などの際にも行われる工事です。
業種や具体的な状況・目的によりますが、内装工事は必要です。
内装工事の必要な業種は、小売店やショッピングモール内のテナント、飲食店、宿泊施設、美容室、サロン、アパレルショップ、医療・介護施設などが挙げられます。
ただし、照明を暗くして施術を行う業態は内装にこだわったところで暗く見えないため、内装工事にそこまで費用をかける必要はありません。
また、内装工事が不要な業種は、主にデジタル環境で作業をするIT関連の企業、コンサルティング会社などが挙げられます。
テナント物件の内装工事の種類
テナント物件の内装工事の種類は以下の2種類の物件があります
・居抜き物件:設備や什器・備品、家具などが残されている物件
・スケルトン物件:床材、壁紙、天井、家具、機器が一切ない物件
ここでは、居抜き物件・スケルトン物件の内装工事と改装費用についてそれぞれ解説していきます。
居抜き物件の内装工事
居抜き物件の内装工事は、前店舗の設備や什器・備品、家具などが残されたままの状態で賃借するため、大がかりな内装工事や新たな設備工事は不要で、スケルトン物件に比べ一般的に安価に施工することが可能です。
お店の雰囲気に合わせて壁紙を張り替えたり、必要な家具を搬入するなど必要に応じた改装工事を行い、初期費用を抑えて開業することができます。
居抜き物件の改装費用
居抜き物件の改装費用は、業種によって異なりますが、目安としては1坪あたり15〜30万円程度が一般的です。
20坪の飲食店の場合は、300〜600万円程度です。
居抜き物件の設備や内装は必ず無償で使用できるわけではなく、前店舗が残した設備や什器などを買い取るための「造作譲渡料」がかかることが多く、什器や設備の質により変動しますが、平均100〜200万円程度が相場となります。
物件によっては交渉次第で金額を下げたり、無償で使用できる場合もあるため、事前に確認してみると良いでしょう。また、工事業者によって費用が異なることも多いので相見積もりを取られることをおすすめします。
スケルトン物件の内装工事
スケルトン物件の場合、ゼロから設計を行い内装・設備の工事費や厨房機器を揃えるため、理想に近い空間デザインや設備環境が実現できますが、工事にかかる費用が大きくなります。
また、スケルトン物件は工事内容が多岐にわたるため、それに伴い工事期間も長くなります。
スケルトン物件の内装工事を行う場合は、後々トラブルを招くことがないよう貸主と確認したり、複数の業者に見積もりをとり、比較・検討すると良いでしょう。
テナントの内装工事の相場費用
内装工事費用にかかる主な内訳は以下の通りです。
・設計費用(デザイン費)
・内装工事費
・設備、備品費
それぞれ解説します。
設計費用(デザイン費)
・費用の内容
店舗の設計・デザインに関する費用で、店舗の規模や業種によって異なります。
費用の算出方法は、総工事費用から一定の割合で算出したり、坪単価や人件費などから割り出したりします。
・費用の相場
設計費用(デザイン費)の一般的な費用相場は、1坪あたり3〜10万円です。
一般的に小売店は安く、給排水設備を必要とする飲食店は高くなる傾向があります。
内装工事費用
・費用の内容
内装工事費は、オフィスや店舗の内装工事にかかる費用のことです。坪単価や面積による算出がベースですが、店舗の規模や業種によって異なります。
居抜き物件で設備を譲り受けた場合は、既存の設備が問題なく使用できるか事前に確認しましょう。
また、床や壁の仕上げに使用する素材のグレードや造作工事の有無も費用に影響しますので、グレードが高いものを使うほど内装工事費用が上がるため、素材選びも慎重に行うことが大切です。
・費用の相場
居抜き物件の場合は、1坪あたり30〜50万円程度が相場です。10坪の店舗であれば300〜500万円程度の内装工事費用が必要になります。
スケルトン物件の場合は、1坪あたり40〜60万円程度が相場で、400〜600万円程度の費用が必要になります。
設備、備品費用
・費用の内容
店舗で使用する設備機器や備品を購入する際に必要となる費用のことです。
必要なものを前もって洗い出して、購入費がいくらになるのか予算を立てておきましょう。
希望する設備機器や備品の価格は、ネットやカタログなどでも確認できますが、設備機器を店内に設置する際に、設置費や工事費がかかる場合があるため、設置費の有無も併せて決めておくと良いでしょう。
・費用の相場
オフィスの場合は、業務を行う上で欠かせない電気配線・LAN配線工事、空調喚換気設備工事は50万円を超えることが多く、消防設備工事にも50万円の費用がかかります。
飲食店の場合は、電気・空調工事は80〜120万円、ガス工事は35〜40万円、水道工事は60〜120万円が相場とされています。
種類別|内装工事の相場と事例
内装工事の相場は物件のタイプや業種・業態、内装のこだわりなど様々な要因によって大きく異なります。
ここでは、オフィスや飲食店の内装工事の相場と事例について解説します。
オフィスの場合
物件の立地や規模、使用する素材によって異なりますが、オフィスに内装工事する際の相場は、1坪あたり10〜20万円で、よりこだわった内装にしたい場合は30万円となります。
例えば、30坪のオフィスの場合は300〜600万円、こだわりたい場合は900万円となります。
スケルトン物件の場合は、1坪あたり20〜40万円に上がります。電気設備や空調設備の計画・設計を改めて行う必要があることから、費用と時間ともにかかりやすいため注意しましょう。
飲食店の場合
飲食店の内装工事をする際の相場は、1坪あたり30〜80万円です。居抜き物件の場合は30〜60万円、スケルトン物件の場合は50〜80万円となります。
カフェ、居酒屋、焼肉店で必要な設備は異なります。カフェやバーには本格的な厨房設備が不要な場合が多いため、居酒屋やレストランと比較して内装工事費用を抑えることが可能です。
内装工事の際の2つの注意点
内装工事の注意点は以下の通りです。
・オーナーからの許可をもらう
・周囲への配慮
テナント物件の内装工事の際にはオーナーからの許可をもらったり、周囲への配慮をして騒音対策やトラブルを未然に防ぐ対応が必要です。
以下でそれぞれ解説します。
オーナーからの許可をもらう
テナント物件の内装工事をする際は、必ずオーナーからの許可をもらう必要があります。
テナントはあくまで場所を借りているに過ぎないため、オーナーの許可なしに勝手に内装に手を加えた結果、後々にトラブルへと繋がってしまうケースも少なくありません。
オーナーから「元に戻してくれ」と言われた際には、再度膨大な時間と費用をかけて戻すなど追加で余計な時間や費用がかかってしまうので注意しましょう。
周囲への配慮
テナント物件の内装工事をする際は、周囲への配慮も欠かせません。
内装工事をする際の騒音は、周辺のテナント物件やビル全体に影響を与える可能性があり、周りの事業主とのトラブル発生につながる恐れもあります。
トラブル発生を防ぐためにも、事前に内装工事と作業期間の旨を伝えるなどの対応が必要です。
内装工事における勘定科目と耐用年数
内装工事は会計処理や申請方法が複雑です。テナント物件の内装工事は、工事内容や工事期間によって金額が大きく異なります。
内装工事における勘定科目は、固定資産勘定(償却資産税)で処理することが一般的で、建物や建物付属設備、諸経費、備品が該当します。耐用年数は、自社所有建物なのか、賃貸物件なのかでも異なります。また、内装工事は償却資産税の課税対象となります。
それぞれ解説します。
勘定科目の分類
企業会計の項目である「勘定科目」において内装工事は建物に分類されます。
賃借建物に内装工事を行なった場合は、原則として内装費を支払った借主が「建物」として資産計上することになります。
しかし、電気設備・ボイラー設備などは建物付属設備に該当するため、「建物付属設備」として会計処理する必要があるため注意しましょう。
分類別の耐用年数
上記の勘定科目の分類により耐用年数も設備内容により異なります。
自己所有建物の場合は、原則その建物本体の耐用年数が適用されます。ただし、建物付属設備に該当するものは、建物付属設備の耐用年数が適用されます。
例えば、鉄筋コンクリート造の建物本体に、「木造」の内装工事を行なった場合でも、「鉄筋コンクリート」の耐用年数を適用することになりますので注意しましょう。
また、賃借建物に内装工事を行なった場合の耐用年数は、合理的に見積もった耐用年数として概ね10〜15年が一般的です。
建物付属設備の耐用年数は、店舗簡易装備3年、蓄電池電源設備6年、電気設備・照明設備15年、給排水設備15年、衛生設備15年、ガス設備15年と定められています。
内装工事後の建物は償却資産税
テナント内装工事後の建物は、償却資産税が課税対象となります。
申請をする際は、1月1日時点で保有している資産が申請の対象となり、申請を忘れずにすることが大切です。前年末に売却した資産や1月2日以降に取得した資産は申請する義務がないため、誤って申請しないように注意しましょう。
内装工事費は減価償却が可能
内装工事費は、減価償却資産に分類されるため減価償却が可能です。基本的には経費としては認められず、内装の種類から各耐用年数を判断した上で、定額法で減価償却として毎年の経費に計上されます。
計算方法は、
内装工事費 ÷ 耐用年数=1年の減価償却額
となります。
減価償却とは?
減価償却とは、機械や備品などを使用していくにつれて、元々の価値が時間の経過とともに失われていくのを費用として計上するときに使う勘定科目です。
減価償却する場合、固定資産を取得した際にかかった費用を全額必要経費にせず、決められた使用期間にわたって分割し、必要経費に計上します。
ただし、分割して費用を計上するということは、無条件で毎年一定額の支出が発生することになり、黒字だったはずの決算が赤字になってしまう可能性もあります。
また、一般的にオフィスの内装工事は10〜15年で減価償却しますが、賃貸オフィスの場合は、契約内容により耐用年数が変わり、内装工事の内容によって計上の仕方が変わります。
減価償却後の耐用年数
減価償却後の耐用年数は、賃借期間の定めがあり、それ以上の契約更新が不可能な場合は、賃借期間をそのまま耐用年数とすることが可能です。
また、カーペットなどの床の敷物は3〜6年、応接セットは5〜8年、電気機器類は6年と耐用年数が定められています。
内装費用を抑える方法
内装工事を抑える方法は以下の通りです。
・明確な目標と予算の設定
・適切な内装会社を選定する
内装工事の費用を抑えたい方は多いと思いますが、安さを追い求めて安全性を犠牲にしたり、気に入らない内装になってしまうことは避けたいものです。
そうならないためにも、内装費用を抑える方法を以下でそれぞれ解説します。
明確な目標と予算の設定
テナント物件の内装工事を依頼する前に明確な目標と予算の設定をしないと、大幅に予算オーバーした見積もりを提示されたり、無駄なコストが掛かる可能性があります。
そうならないためにも、あらかじめ目標と予算が設定されていると、工夫した設計を行ったり、仮に高くなった場合も代案を提示することもできるため、目標と予算を双方で認識しておくと良いでしょう。
適切な内装会社を選定する
テナント物件の内装工事を依頼する際に適切な内装会社を選定すると内装費用を抑えることができます。その際には、内装工事の施工実績が豊富な会社を選ぶのをおすすめします。
一般的な住居とは異なる専門知識を必要とする場合があるため、インフラ設備の設置や許可申請などの場面では、専門知識や経験のある会社に依頼した方が安心です。
内装会社の実績を確認する際には、業種・業態によって必要な工事内容が変わるため、内装工事を考えている業種・業態を手掛けているかについて確認すると良いでしょう。
まとめ|テナント物件の内装工事は費用や耐用年数をしっかり確認しましょう
テナント物件の内装工事の費用は物件のタイプや業種・業態、内装のこだわりなど様々な要因で大きく変動します。
また、内装費は減価償却は可能ですが、会計処理や申請方法が複雑なため、耐用年数をしっかりと理解・把握しておくと減価償却がスムーズに行えます。
減価償却は長期間に渡って影響を及ぼしますので、判断が難しい場合は、信頼のおける税理士に相談するようにしましょう。